【社労士が解説】労災の複数就業者の対応

働き方改革はもちろん、政府の成長戦略の一つとして「副業・兼業の推進」があります。

近年は、新卒で入社した会社で定年まで勤めあげるような働き方が求められなくなっており、自分の事情に応じて柔軟に働き方を選択できる企業が人気となっています。

さらに、長引く新型コロナウイルス感染症の影響から、毎日会社へ出勤し、1日8時間勤務を週5日という決まった形ではなく、三密を防ぐべく、フレックスタイム制や在宅勤務などを取り入れる企業が増える中、コロナ禍によって一部休業を余儀なくされたり、時間を短縮して稼働するなどの状況に陥っている企業も出ています。

■政府が後押しする「副業・兼業」の推進

2018年1月、厚生労働省の「モデル就業規則」に「副業・兼業の届出制」が記載されたことにより、ニュースなどでは「副業解禁!」のなどと騒がれましたが、これも働き方改革の一環として、多様な働き方を認めようという施策の一つです。

同時に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公開され、その内容は、副業・兼業が進まない現状から導入した場合の企業側のメリット・デメリット、従業員側のメリット・デメリットまでが丁寧に解説されています。

事業主には労働基準法によって「安全配慮義務」が課せられているところ、さらに労働時間と健康の関連性を理解したうえで、確実な従業員の健康 管理を行うことが求められています。

そのうえで、法的な問題点も明確に指摘されており、以下の法整備が求められるとしています。

1)労災保険の給付
2)雇用保険・社会保険の加入

■「副業・兼業」推進を阻む法的問題点の解消へ

2020年4月には、労災保険法・雇用保険法・労働施策総合推進法などの改正により、「複数就業者」という言葉が生まれ、労働者が「副業・兼業」をする際に足かせとなっていた部分の改正がなされました。

1.複数就業者の労災保険給付について、複数の勤務先の賃金に基づく給付を行う

2.複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者について、雇用保険を適用する

3.脳・心臓疾患や精神障害の労災認定について、すべての勤務先の労働時間やストレス等を総合的に評価して判断する

それぞれの施行日は別途定められますが、これらの改正法が成立したことにより、政府が本気で「副業・兼業」推進に取り組んでいるというメッセージが伝わります。

新型コロナウイルス感染症の終息が見えない中、企業の営業活動にも大きな影響が出始めています。

企業の体力がなくなればなくなるほど、そのしわ寄せは雇用される従業員に降りかかることとなり、特にパート・アルバイト、契約社員、派遣社員などの不安定な雇用形態の従業員が真っ先に影響を受けます。

勤務時間を短くされたり、一時帰休を命じられるなどした従業員は、収入減を補うために「副業・兼業」を考えるようになります。

実際、在宅でできるデータ入力や動画編集などの業務を仲介するサイトでは登録者数が増えているようです。

企業の人事・総務担当者とすれば、従業員が会社に内緒で「副業・兼業」をすることがないよう、自社の「副業・兼業」ルールを今一度周知するなどの対応が必要です。


社会保険労務士法人トップアンドコア
社会保険労務士・行政書士   小 西 道 代
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